【さみだれマキシ】第52話「アベとフジー編その3:遺産」

fkd

2009年11月11日 20:00

【さみだれマキシ 十一部】第52話「アベとフジー編その3:遺産」



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爆薬は、フジーのような使い方も当然のように考え付く。
むしろ、短絡的ならそちらしか考え付かないだろう。
しかし、同時にそれは「人間として絶対にしてはいけないこと」だとも
誰しもが気づくはずだ。

アベはフジーを生かしておくことは出来なかった。
命を誰よりも大事にするからこそ、
フジーのような命を重んじない人間に
他の人間が殺されることは我慢できなかった。
矛盾していることもわかっていたが、
それはアベの信念からは少しも外れていなかった。


アベはフジーと対峙することが決まった時から、爆弾を持ち歩いていた。
その爆弾はシンプルな小さいものだ。
フジーが開発した爆弾と見た目は同じである。


当然、アベは爆弾に関する知識も豊富であった。
むしろベーアーの知識は18の時に超えており、
それは比類なきものになっていた。
フジーのそれとは比較にならない。
だから、フジーと同じ大きさの爆弾でも様々な仕掛けが出来たし、
威力は数十倍にもできた。



しかしフジーはそんなことは知らなかった。
自分の知識に慢心し、研究はあまり進めていなかったのだ。
フジーの爆弾ではせいぜい半径5メートルを吹き飛ばすのが限界だった。


アベは静かに馬から降り、フジーの方へ歩いて行った。
フジーに一歩、また一歩と近づいていく。

「どうした、殴り合いでもするつもりか?
 だがな、お前は私に近づくことはできない!」

そう、フジーの周りには屈強な取り巻きが3人ほどいた。
竹保に攻めてきた赤国軍の武将の中でも特に強い3人だった。
つまり、アベはフジーから半径10メートル以内に
近づくことはできなそうであった。


しかし、アベはお構いなく火をつけた。
まだ15メートルはあった。
それは、アベの爆弾では余裕で殺傷能力を持つ範囲であった。

フジーは初めは笑っていた。
しかし、アベの決意と憎悪が一杯の表情を見て、ようやく気付いた。

「ま、まさか…そんなばかな…
 アベ、やめろーー!

時すでに遅し、アベの爆弾は着火した。

「俺の全ては阿番においてきた。
 誰かが必ず俺の意志をついでくれる。
 阿番に幸あれ!」


そう叫んだ瞬間、大きな爆発が起こった。
アベの爆弾の炎はフジーの周辺にあった爆弾全てに引火し、
辺り一面火の海へと化した。


おそらく、狂気の沙汰のフジーから兵や市民を守るためには、
こうするほかなにもなかった。
アベは阿番を出た時から、こうすることを決めていた。
父・ベーアーの残した遺産を、
「負の遺産」から「正の遺産」にするために。



次回へ続く。

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