【さみだれマキシ 七部】第36話「竹保遠征軍」
1時間後、全武将が大広間に集まった。
みな決意に満ちた、素晴らしい顔つきをしていた。
アルの策はまた見事にはまったようだ。
そこで、ササキとモウ・リーの考えた策が発表された。
その策に、誰しもが驚きを隠せなかった。
モウ・リーが力強く話し始めた。
「赤国は阿番と竹保、両方に軍を送りこんできます。
おそらく竹保軍の軍勢は現在かなり弱まっているため、
阿番に7割、竹保に3割ほどの軍勢が分配されるはずです。
阿番に攻めてくるのが最強の武将・タカシと大半の兵士で、
竹保にはアカーマツとフジー、残りの兵士が攻めるはずです。
つまり、阿番が竹保に送り込む軍勢も
3割強にするのが適切といえるでしょう。
阿番にいる攻撃型の将軍は
[マキシ、荒剣、ニッタ、シュンスーケ、クドゥー、アベ、ササキ、私]
の8名です。この中から3名と3割の兵士を竹保遠征軍とします」
ここでニッタが口をはさんだ。
「当然、おれとマキシさんはリベンジだから決まりだな。
あとは参謀のあんたを加えた3人といったところか?」
「いえ、違います。その中の誰ひとりとして適任者はいません」
「!?なんだと!?」
モウ・リーは続けた。
「ニッタはすでにタケーマタ・フークダが強いという先入観があり、
冷静に対峙できなくなる可能性があります。
そして持っている情報を全てもらった今、
わざわざ危険を冒してまで出向く必要はありません。
ニッタの情報を聞く限り、
タケーマタとフークダはマキシ一人ですら倒すことは困難です。
そこで、静と動を持ち合わせた二人には、
こちらも静と動の二人を対峙させるのが一番と考えました」
ここでアルが問いかけた。
「
しかし、阿番にはそれほど息のあった二人などいないはずでは?
まだ全員が集合してからそれほど日は経っていないのだ。
連携作戦も未完成のものが大半であることは、
モウ・リー自身もわかっているはずだ」
「何をおっしゃいますか。
これ以上ない適任の二人がいるではないですか」
モウ・リーは笑いながらその二人を指さした。
その指の先にいた二人は、
なんと荒剣とクドゥーであった!
荒剣とクドゥーはにやりと笑った。
「荒剣とクドゥーは一度命をかけて闘いあった仲です。
男、特に武将と言うのは不器用な生き物で、
本気の剣をぶつけあった者同士のみがわかりあえる
「領域」があります。
さらに、その戦いにおいてお互いの長所・短所は完全に熟知しており、
阿番においてこの二人の連携に敵う武将などおりません」
実際に荒剣とクドゥーはあの闘い以来、
自然と二人で修行をするようになっていた。
クドゥーに欠けていたパワー系の修行を荒剣が教え、
逆に荒剣に欠けていた戦略系の知識をクドゥーが教える。
互いに全てを知り尽くした者同士だからこそ、
互いの意見に素直に耳を傾け、
かつ適切なアドバイスを送りあえるようになっていたのだ。
また、お互い孤独の中育ったという境遇も重なり、
気がつけば兄弟のような固い絆で結ばれるようになっていた。
戦術指南役を務めているモウ・リーはこの二人が短期間に
驚くべき進化を遂げていることを見つけ、
この二人の関係値を即座に理解したのだった。
ササキ一人では絶対に見つけられなかった、
見事な観察力であった。
「竹保遠征軍には、荒剣、クドゥーの他に、アベを行かせます。
同じ富間甲出身のフジーを止められるのはアベしかいないですし、
少数精鋭で攻めるため一人ひとりのケアも重要になりますから」
「俺もフジーとは決着をつけたいと考えていた。
ぜひ行かせてくれ」
アベも即座にこの作戦に賛同した。
続いて、残りの阿番での戦いについての話が始まった。
【さみだれマキシ 七部】第37話「阿番防衛軍」
肝となるのが赤国の7割の軍勢が押し寄せる阿番での戦いである。
ここからはササキが話し始めた。
「阿番にくる赤国の軍は7割とはいえ、赤国の兵は血に飢えた者が多く、
一人一人の戦闘意識が異常なまでに高いと聞きます。
意思は恐怖をなくし、普段通りの実力を発揮させる効果があります。
心やさしき阿番の兵では、相手2人に対し
3人でかからないと勝負にならないでしょう。
阿番にくる赤国の兵は20万、一方阿番に残る兵は25万程度。
計算の上では、かなり厳しい戦いになることが容易に予想されます。
しかしそこはわが軍の経験と、アルさま、そして新たに加わったニッタ、
そして私を最大限に生かして乗り切ります。
さらに、マジネッチョリ最高の身体能力を持つと言われている
赤国の武将・タカシとの対峙も大きなポイントです。
これには優れた知力と札桑で最も高い戦闘能力を持っているモウ・リーと、
その手足となっていたシュンスーケの二人で戦いを挑みます。
正直二人でタカシを止めることは難しいかもしれませんが、
そこはモウ・リーの知性とシュンスーケの勇気に掛けたいと思います。
これで阿番と竹保での戦いに勝利できるはずです」
「ちょっと待て。」
ここで、荒剣が急に話を止めた。
「竹保対抗軍の戦略で、1個足りないところがある。
最強の将軍・アカーマツの扱いだ。
まさか、ササキとモウ・リーが見逃したわけはあるまい。
おそらく、まだ名前が出ていないマキシを使うんだろうけどな」
「そうです。その話を最後にします。
アカーマツはおそらく竹保に乗り込んでくるでしょう。
しかし、アカーマツは一人で数千の兵を
倒してしまうほどの力の持ち主です。
竹保に行かせれば、事態は大きく変わってしまいます。
そこで、マキシにアカーマツを足止めしてもらいます。
竹保と赤国の間に絶対に川を渡らなければならない場所があるのですが、
アカーマツを捕らえ、しマキシと1対1の状況を作り出せるのは
ここしかありません。
あとは、マキシに任せるしかありませんが、
少なくとも相当の時間を稼ぐことは可能です」
「最後はやはりマキシ頼みか・・・すまんが頼むぞ、マキシ」
「了解した」
アルはマキシをちらりと見たが、アルはすぐに目をそらした。
マキシは見たことのないような冷たい表情をしていた。
それはもう二度と失敗は繰り返さないという決意の裏に隠れた、
何人たりとも狙った獲物はいかしておかないという、
恐ろしいほどの殺意が隠し切れていなかったのだ。
ただ、その表情は一瞬でなくなり、
普段の優しい表情のマキシに戻った。
(マキシほどの男があんな表情をするなんて・・・)
アルはひそかに確信していた。
マキシが最後の、かつ今までで最高の伝説を作りあげるだろう、と。
そして、アルはこの時同時に覚悟も決めた。
阿番を守るためには、悪魔にもなってやろうと。
第七部完